「風立ちぬ」ま人には勧めないね。
はっきり言って人に見ることを薦めることは決してないです。
ただ個人的には楽しめた部類ではあると思う。見てよかったってほどではないんだけどね。その点はずっと後で書くとしよう。
一番の問題点は、声優を庵野秀明であると宣伝に使ってしまったこと。
だから、最初主人公臭いガキが全く声を出さず展開しているところだって早くしゃべれと思ったし、青年になって、ああこの声ね、で多分この映画への興味の8割は終わっていたかもしれない。
しかし、ガキの時分の声は誰がやってたんだろ。これも庵野秀明だって言うなら驚嘆するほかない。
この声優に関しては、こういうの宮崎監督は好きだねえ、としか思わない。
結果論としてですが、この声優ネタが先行したおかげで、始終声優のテストをしているような気分になったし、実際聞き取りにくいところところどころありで、文句も言いたくなった。
おっと、声優呼ばわりは宮崎映画に関しては間違いかもしれないと気がついた。
こいつらはプロの声優扱いすると齟齬が生じるので、「アテ師」と古来の呼び方を使う方が宮崎監督リスペクトの呼び方なんですかね。
批判メインで書いているからもちろん宮崎監督の放言はあかんとは思っていますが、他方で自分視点的にジブリ映画のアテ師の使い方は結構好きな面もあります。
まず宮崎監督の好みというのは、簡単にいえば、自分のコントロール下に置ける、意外性を発揮してはいけない棒声優であることであると思います。
今回の庵野秀明氏のアテ師ぶりは、声を張り上げなければだめなんじゃないかというところでそんなのでいいの?て思ったのもあるけど、それが重要で、声優の演技が絵の邪魔になると考えているんでしょう。
正直こういう考え方ではないかと勘ぐっている感じでは、もちろんこの考え方に対しては批判的なのです。
でも現在の他のアニメを見ると、声優頼みのところが大きいのも事実だと感じており、その反発としては分からなくもないとも思っています。
いや、給料の問題ではないかと勘ぐっているのもあるのですが、例えば今期、前期さらにその前の期などを考えてすら、テレビアニメの声優のダブり方は明らかにおかしいレベルに達していると思う。
人気声優だからこの役に配置してみましたという感じ。いや、そもそもこれら常連の声優としての技量その他に関してはある一定以上のレベルでもうどれもうまいとしか言わざるを得ないと思いますが(庵野秀明氏のアテ師ぶりは素人でも違和感のある下手さだと思っています)、にしても人材の少なさを表すかのようなダブりっぷりは、これまた素人でも分かる異様さに感じらるんだね。
それに対してジブリの映画は採用が多彩で、声優を既にほとんど使わない事態になっているかたくなさはどうだと思いつつも、声に対する新鮮さ、斬新さは感じられた。
これは元々、声優の中の人話があまり好きではないという自分の好みと合致しますが、普段のアニメを見ているときに「ああー誰誰の声だー」って思うのがそもそも邪魔だと思っていたので共感できる。
とはいえ「この声優だから…」の楽しみ方も逆にしているので否定をし切れないのですが、映画という観点では全然違うアテ師を使うというのはありだとも思うのです。
アテ師の話はこんなもんだなぁ。
それにしても竹下景子なんてのは、アテ師としてジブリ映画には常連でありながら声優扱いはできないわけで、宮崎氏の飛ばし発言は、炎上マーケティングとしては大成功だけど、彼がいなくなった後きっととんでもない悪影響を与えるであろうことは分かるだけに残念な話ではあると思う。
さて映画の内容に触るけど、まずカストルプが非常にあざといキャラに見えたのが残念だった。
結局のところ、反戦とかそういう内容を込めないともう大手では映画を作ることはできない時代になったんだ、ということの表れだとも思うのだけど。
彼の採用は、このまるで戦争賛美の内容に見える全体の内容に、この主人公は反戦側の人間なんだよという着色をするためのものであるとしか言えないものだったであろう。
元々主人公は自分の作る作品にしか興味のないたぐいの人物でマッドサイエンティスト一歩手前のキャラであるのは明らかだけど、このカストルプ関連を扱うことにより反ナチス、日本爆発を扱えるようになっている。そりゃあ、特高警察に狙われる人物の時点でそういう面はクリアなのだ。
戦争賛美に関してですが、韓国などがこの映画に文句をつける理由はわかる、戦争賛美じゃないかと文句を言うのもまあありかなとも思う。
しかし、やはり戦争賛美である点は非常に外見的で、特にそういうものではないと思っている。
韓国の批判なんかは分かりきっていて、これだけ日の丸の飛行機が飛ぶシーンがある映画を批判しないわけがない、国内で放送できるわけがないんですよ。リアルのロケット打ち上げなんかですら、CG使って日本と分かる部分すら消す国のマスコミなんだから当たり前。
戦争賛美だと思われるかも、は、戦争を扱うわりに悲惨なシーンは飛行機の残骸の山程度でとどめたところですか。
1945年までの内容をやったのに、という意味では確かに「悲惨さ」を伝えるインパクトには欠けていたと思う故。
でも、先に書いたとおりこれで「戦争賛美」のレッテルをはったら思想統制レベルでしかないとは思っている。
あとは結核と喫煙でしょう。
やっぱり知識がないと、知識が生半可だと文句を言いたい気もわかる。
我々の価値感は現代の価値感であって、その現代の価値観で当時を振り返らざるを得ないのは仕方のないことである。
そういう意味で、現在の価値観を押し付ければ、普段から喫煙シーンをたくさん使っているのは、嫌煙家からしたらとんでもないことではあるのだろう。
まして結核の病人の横で煙草を吸うなんて言うのは、さすがに当時でも分かる健康によくないことであるはずなのである。
これはもう何でもそうなんだよね。
実際に歴史的な作品に当時は普通にあったことが、描かれないなんて言うのはもう当然のことであるからだ。
例えば日本の戦国時代の話を考えれば絶対に衆道系の内容は関わってもいいはずなのだが、描き方が難しいなどの理由でまあ今では絶対に扱われない内容のたぐいである。これは現在の価値感として見て、かなり逸脱しているように見えるからに他ならない。
自分の感想としては、さすがに結核患者の横での喫煙そのものは、うーんと思ったが、それでもよくやったなぁと思ったもんだ。
煙草はあの扱いはまず間違いなく正しいし、結核も当時いわゆる死病でそれこそ「TB(テーベー) or not TB」でTBだったら死が間近であると考えても仕方ない話だった時代だからねぇ。
結核患者の横で煙草のシーンも、「それよりも優先すべき事項」があるという悲惨さを物語らせた。今でいう尊厳死みたいな概念でしょうか。
妹が来て泣くシーンあたりは本当にああ、よく描いてくれたと思うシーンだった。
まあ文句を言う人は言うでしょう。
っと、これだけ書くことあれば十分に楽しんだ、とも言えるけど、本当に面白いと思ったものは、主人公その他の動きではなく、ほあの小物シリーズの描写の方だった。
計算尺イイ!!
いや小さいの持ってるけど、使うスピードも素人以下レベルながら、ああこうやって使ってたんだと改めて見させてもらった感じ。
日本の家人の人たちの労働、動きなども面白かった。
電車も良かった。電車の中の人たちの描写も好きだ。
飛行実験のあの緑の旗は何で緑なのかとかわからないし、これから当分疑問にもつ内容となるだろう。
そういう意味で個人的に面白かったシーンが結構前半に集中していて、後半は調度品でこれらはあんまり珍しく感じなかったんだよね。
こんなもんです。
間違いなく自分は楽しめた人間ですが、いろいろ感動もすれど、その前に気になる関門が多い作品だと感じる以上、絶賛は無理ですなぁ。