続き

自分の処置
 まず、今回の問題は、その子達の人生がかかった問題だと思っています。
 仲間内からは、「厳格に対処すべき、社会的制裁を受けるべきで警察に通報すべき」と強硬な意見も出されました。
 そのような行為(つまり人の財布からお金を盗むこと)をする時点でそいつらは犯罪者であって、法的措置を受けるのが当然だ、という立場です。


 一理あると思いますが、自分はそれが「良い方向」へ繋げるとは思いませんでした。
 まず所詮「盗み」でしかないので、警察に通報しても大したことは問われないだろうという読み。
 そして確かに悪いこととはいえ、塾側が率先して子どもに前科を付けるべきであるという主張の問題。
 そもそも盗まれた時点で通報したのならともかく、自白の言質まで取ってなお「警察に頼む」という行為の非道さを感じることもありました。


 いろいろ「でも警察の厄介になって制裁を与えるべきではないか?」と手を変え品を変えそう促してくる人もいましたが、今回の件に関して警察の厄介になるのは間違っているという立場を自分は変えませんでした。


 上記に書いた理由の他にも様々な理由はありますが、それ以外の理由としてこの彼らA,Bに対し、『警察に通報されるよりも厳しい罰を与える』自信があったのもあります。


 そもそも「警察に通報し、刑事罰を与えることが制裁になる」、本当でしょうか?
 いや、確かに重い制裁ですが、その制裁って何のためにやるものなのでしょうか?


 今、世の中は厳罰化が進んでいる日本です。
 自分もこの厳罰化には賛成しています。
 殺人・強姦などに対する社会的制裁が甘いと感じるからです。


 しかし、こと子ども達に対して、警察に突き出す行為って意味があるんでしょうか?
 自分は、社会性を失わせる、もしくは立ち直ることを許さない措置に見えて仕方がありません。


 今回のポイントは、「叱る」いわゆる「制裁を与える」ことも少しはありますが、二度とこういう行為をさせないことにあります。
 その辺をはき違えて、警察に通報し「厳罰を与える」ことで、抑止力になるなんてことを考えているんだとしたら馬鹿も良いところだと思っています。
 あ、凶悪殺人とかは違いますよ。
 あれは、厳罰化することによって、社会との隔離をお願いしたいという個人的な理由が混じっています。
 強姦する奴なんかはすぐ牢屋から出てきて繰り返していますが、その期間を出来るだけ長くしてくれれば世の中平和ですよね。
 今回の子どもは、社会から隔離する必要はありません。


 むしろ、そういう犯罪を犯さないように社会と交わっていって欲しいと切に願うわけで、その意味でも社会的立場に対する制裁(前科を付ける)というのは大きく間違っていると思います。


 とにかく二度と犯罪を犯させない。
 この点をしっかり植え付けるために、どういう叱り方がいいのか、なのです。


 しかし、悪いことをやった奴に対する叱り方って、意外とマニュアル化されていませんね。
 特に子どもに対する叱り方
http://allabout.co.jp/children/infanteducation/closeup/CU20060821B/
 
 辺りの叱り方のポイントは自分も賛成ですが、ネタの重大さが違いますね。
 この中で犯罪に対して叱る場合には大きく異なる点があると思います。


>●今、叱っている内容に付け加えて、昔のことまで引っ張り出して叱るのもタブーです。

 
 これ。
 今回のような悪いことをやった際の叱り方のポイントはまさにここにかかってきます。
 むしろ、これを使って徹底的に痛めつけるのがポイントです。ただし、短期的に引っ張らないように、です。
 こつもあります。
 「昔のことを引っ張り出す」のは「叱る」ためではなく、証拠固めのためです。


 そもそも、今回の行為、親の金を盗んだり、通っている塾の先生(もちろん親しいですよ)の財布から盗む、簡単に言えば「近親からお金を盗む」行為の問題点はどこにあるのでしょうか。
 確かに塾の先生というのは他人ですから、これは一ランクアップした泥棒に見えますが、実は親・友人など「近親から盗む」という点で、子どもはほとんど区別が付いていません。
 知らない家に忍び込んで泥棒をするのとは大きく異なるのです。
 

 だから、彼らが得たもの(盗んだもの)に対して失ったもののポイントを押さえれば自ずと叱るポイントが見えてくるのです。
 ポイントをズバリ言いましょう。
 信用です。
 今回、彼らが支払ったリスクは非常に簡単なものです。
 信用支払ったのです。


 別に強い口調で言う必要はありません。彼らに諭せばいいのです。


 盗みがばれた時点で彼らは大いに信用を失いました。
 それをしっかりと認識させることです。
「親の金を盗んだ結果、何を得られたか考えてみろ。親がいつ気付くのかドキドキしたりして落ち着かなかったろ。親に呼び出されたら『ばれたかな』とか心臓がバクバクしてたりしただろ。」
 等から始まり、
「これで、盗みが見つかったんだけど、信用失ったね〜。これで、おまえらの言うことなんか我々は信用しないよ。何か悪いことがあったら、おまえらから疑うからね。」
 とハッキリ失った信用を失ったことの大きさを認識させることです。


 以前親の金を盗んだ子に対しては、
「前に、盗んでるだろー。だから今回もやるのも不思議じゃないよなー。」
 としっかりと二回目であることをなじり、
「いい?悪いことをやって信用を失うとどうなるか、今やってるからわかると思うけど、その前にやった悪いことをほじくり返されて証拠に使われるんだよ。」
「いやだろ?昔やった悪いことをことさらなじられるのって?でもね、失われた信用を取り戻すまで、この過去の行為が君たちの評価になってずっと続いていくんだよ。」
「そもそも、家でまで変な目で見られるようになっちゃったんだよ?親に、君たちを一番守ってくれる親に変な目で見られてることに、おまえら耐えられるの?」


「子どもの頃、いたずらってのは必ずやるもので必ず叱られるけど、そこから学んで欲しいことは、悪いことをやったら結局いやな目に遭う。信用を失うってこと。」
だと自分は思っています。


この叱り方をして、わかった子は、たいてい悪いことはしなくなります。ただ、知的レベルが必要です。小学校六年以上の子には効果覿面です。
それ以下の子には、ガンッと大声で怒鳴って叱るやり方も重要でしょう。
二回目をしたなら、そこで「信用を失う話」をコンコンと聞かせてあげてくれれば効果があります。


しかし、上の方で書いたけど、これって結構「残虐な」行為です。
わかりますか?


この叱った内容、心に残る限りずっと影響を与えます。
実は真綿で首を絞めるように、徐々に徐々にその相手を追いつめるところがあるのです。


だから、こういう叱り方をした後、ダメージを受けているのが確認されたら、絶対にそれ以上叱らないでください。
必要がありません。特に親御さんは優しく接するべきです。
その優しさが、相手を苦しめることもありますが、それはずっと大人になってからでしょう。わかったときに、「お金を盗むような相手に優しくする行為」に対する矛盾に涙することでしょう。


 ちなみに、ダメージを受けていないようだったら、折に触れダメージを与えることがもう可能なのも覚えておくと良いでしょう。
 「そういえば〜」と直接過去の話を持ち出すことも出来ますし、子ども達の前で「お金を盗むのは〜」とよく似た話を持ち出すだけで十分に堪える内容になります。
 「真綿で首を絞めるように」彼らは勝手にダメージを受けていくのです。
 逆に言えば、素直になったのならそれ以上ダメージを与えないように注意をしてください。


そもそも、叱るのは二度とこのような極悪なことをやらせないことにあります。
そのためにはやらない方が良いという理由を知らしめる必要があります。


 罰を加えるのは、悪いことをすると罰を与えられることに対する恐怖心で抑止することです。
 しかしこれは健全な理由ではありません。


 善悪を説き、悪いことはやらないように、と諭すのは簡単ですが、残念ながら世の中にはその悪いことに近いことをやる人も多いしそのタイミングもありすぎます。
 スピード違反程度ならしても良い?子どもにとって違反の区別を明確にしていない場合、それが矛盾に見え説得力を得られないことがあります。


 悪いことをすると信用を失う、コレをしっかりと植え付けさせ、信用を失った状態の相手を一度徹底的に、「こういうモンだぜ」となじっておく。
 わざとらしくでいい本気でやらなくて良い、こうやって怒られるんだよ、思われるんだよ、と知らしめておく。
 自分は一番これが効果があると思っていて、かつ後々まで残る厳しい枷だと思っています。


 自分がそう説教した後で、今回はすぐ他の講師が叱ったんだけど、そのあとでまたフォローとして「な?一度悪いことやると何度も叱られて気分悪いだろ?」
 と確認させておきました。


 くれぐれも注意しておくけど、一度これをやったら、実際にまた同レベルの悪いことをするまではコレと同様の叱り方は絶対しないように。
 繰り返すことによって自暴自棄になりかねないし、精神的負荷が大きすぎるのである。


 ということで、警察には訴えず、塾側として厳しい叱責はせず、やめさせるかどうかを判断するのは難しかったですが、残りたいなら残っても良い旨を伝えました。