H2
- 作者: あだち充
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: コミック
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- まずはニコニコ動画について
ニコニコ動画のアニメには、本当にお世話になっていて、仕事柄リアルタイムで見れない遊戯王5Dに関しては、その放送された次の日の未明からこれにアップロードされたものを毎回探して楽しませて頂いています。
ずっと消さないでくださいとは言いませんから、
放送された一週間程度は最新アニメについて是非残しておいて欲しい!ものです。
マジ切実な願いですね。
- それはともかくH2のアニメです。
この作品はリアルタイムで少しだけ見た記憶がありまして、7時半とかその辺りの時間にひっそりと始まってひっそりと終わった記憶があります。
当時は、あだち充作品に関しては正直食傷気味な感じがありまして(後述でいろいろ触れる。)、このアニメ化した際も見ていましたが、それほど楽しんで見れた感じではありませんでした。
ニコニコ動画で改めてみたその辺りの感想としては、声優の力量がいまいちな故に声量や感情に乏しいことがあったんじゃないかと思ったりもしました。(当時は声優の知識なんかありませんでしたのでそんなことは思ってませんでしたが)
というわけで、『あだち充作品→「タッチ」に始まり「タッチ」に終わる、やや古くさい野球ラブコメ、他の作品と区別できない登場人物=差別化に乏しい』などのステレオタイプイメージがべっとりと頭に塗り込められている感じで、その頃以後「H2」「ラフ」辺り以降、読まなくなりました。
そんな状態でニコニコ動画でそのアニメを見つけて、何の気無しに見たわけですけれども、これが絶妙な展開で、「ああ、やっぱりあだち充作品は安心感があるな。」と改めて思ったものです。(前述の批判に関してはすっかり撤回するに至りました。)
- あだち充作品の話といえば、まず「タッチ」に触れずにはいられないでしょう。
双子の兄弟が、一人の女性「浅倉南」*1を奪い合い(?)、競争相手の死、新たなるライバル「新田」の登場など、主人公関連の逸話も多いこの作品ですが、それにもましてこの作品の強さはその周辺を形作る様々な脇役の存在感、安定感にあると思います。
新しい監督とカーブが得意のピッチャー(もう遙か昔に読んだ内容であることもだが固有名詞を覚えるのは自分は苦手、ネットで調べればわかることだが敢えて忘れたまま)の二人は非常に良いキャラクタでした。
和也の死が10巻行かない序盤でもあることもありますが、その後のテーマの一つとして新監督の人生再起と成長に大きくページを割かれており、何かしら心に残る内容でした。
カーブが得意のピッチャー(仮称)の役柄は、強敵であり道化であり、そして怪我という負の面を扱う高校生ながら人生を思わせる非常に重要なキャラクターでした。
実際の所、どの作品でもそうですが(あだち充作品に限らず)主人公級が挫折をしようとも復活することは約束されているのでそれ故に安心できる、というのがどの漫画についても言えることだと思います。
しかし、彼のような「中途半端な一時的な準主人公」というのはともすると作品のその後には関わらない可能性すらあり、何が起こるかわからないハラハラ感はいつも感じるところです。
このキャラクターも「高校生球児→肘を痛める→野球に対する諦観」というありがちながら厳しい内容を突きつけ、幼なじみがブ(ryという試練も乗り越えていく様は忘れられないところです。
野球に対するこだわりもすばらしい。
とはいえこれについては、H2を語る段で改めて語る内容としよう。
とにかく、時代を一世風靡させた「タッチ」、それは紛れもなく「あだち充」最高の作品といわれるに値するのは間違いないと思っています。
- さて改めてH2について
のっけから先の結論を否定しますが、今全巻を読んだ自分の感じでは、「H2こそ最高の作品!」だと判断しました。
そう「タッチ」を遙かに超えた、です。
一度アニメの話に戻ります。
アニメは41話で終わっており、その作品の前半で打ち切られています。
当時のアニメは人件費が高騰、コンピュータ化に移行していないなどの理由からやや不遇な時代(所感では90年初等から98年ぐらいまで)だったので採算が合わなかったことも十分予想されます。
視聴率も伸びなかったかもしれませんね。
しかし、今見てみて、各キャラクターが生き生きとしており、少なくともその続きが気になるいい話でした。
原作に沿ってばらまいた伏線も、打ち切りの関係で回収していないことはアニメとしては問題がありますが、やはりあだち充調とも言うべきストーリー進行は非常に安定感がありますね。
ともかく、もっと見たい。
ってことで原作を引っ張り出してきて一通り読破しました。
- 改めてH2の漫画について。
4人の主人公、比呂、英雄、ひかり、はるか。(ヒロイン二人についてはだいぶ後述)
比呂といえば小村じゃね?と思ったのはともかくとして、この男主人公二人は中学時代はいわゆる桑田と清原のような同じチームの最強のピッチャーと最強のバッター、それがひょんな理由から違う高校に進学し甲子園で戦う相手となる。
名前通りにいわゆる2大ヒーローであり、この二人に野田(キャッチャー)を含めて最後まで仲違うことなく最強として君臨し続け、最強だけど運に左右され時には負ける挫折も経験する、先が全く読めない野球漫画になっている。
野田は明らかに古田敦也を意識した、それまでのあだち充漫画の常連のキャッチャーを打開したキャラクターで冷静で聡明、野球全体の語り部としては申し分なくほとんど主人公だがいわゆるラブストーリーに絡まないが故脇役になっている。
実際の所、野田周辺は語られる内容が非常に少なく、彼こそが「最強」的な扱いであったと思うけど、その彼がいるが故に最強主人公さえ失敗をしても違和感がないのかもしれない。
良いキャッチャーの視点をもって、その野球全体を組み立てるというのが非常に自然にまとまっている。
タッチ辺りと比べるとその辺りの野球記述全体が変わっている感があり、より現実味を増したと思えるのもその辺りのことからだろうと思っている。
この作品の連載当初はJリーグ発足の年付近で、リアルタイムで読んでいた自分も思ったけど、この漫画で時々語られるとおり「野球は古くさい」というネガティブイメージがあった時代であったと思う。
物語最初のあたりは、作者がといって語弊はないと思うが、「野球が面白い!」という内容をやや斜に構えて、それでも伝えたいという意図がひしひしと感じられややくすぐったい感じがする。
逆に木根あたりが「ゴーーーーーール!」と叫び回っている姿を滑稽に表現する様は、サッカーへの憎しみを感じられる、ってか今見ると直接内容に批判しているわけではないけどサッカーには触れないようにしようと言う感じが痛々しい。
まあ木根自体多分に狂言回し的能力を持ったギャグ要員であったので仕方ないところであったと思うが・・・。
- 木根について
出してしまったのでここで木根について扱うけど、木根は本作品で最も感動させられる人物の一人でもある。
才能・努力は一流ながらその更に上を行く主人公格3人には遙かに及ばない・・・しかし、野球は2,3人だけでは出来るスポーツではなく、設定上ない野球部を発足させることから始まる際、「好きだけど野球は決してうまくない連中だけで構成された野球同好会メンバー」のフォローにはどうしても必要なキャラクター。
実際の所、更に前の時代にこの作品を書いていたとしたら、最強バッテリー比呂&野田でバッタバッタとなぎ倒していく野球を書かれてもおかしくなかったが、前述のとおり「野球のおもしろさを伝える」ことに意識を裂いたこの作品では、セカンド柳の登場や有力な後輩の登場でフォローされ、野球が一人では出来ないことの記述は必須だろう。
その意味では彼もやはり野田とはまた違った意味で主人降格であり、アニメでは道化止まりだったが漫画本編で彼には笑わされ、うっとうしがられ、そして何度も感動させられるキャラクターである。
怪我からの復帰のために、返って悪化させてしまうシーンなどは涙無くしては読めないが、その後のあっけらかんとした彼の姿の登場もまた改めて感動させる。
重要な場面でやや強制的ながら大舞台で先発ピッチャーをさせられるシーンを考えても、本編最も成長した人間だったのだろう。
比呂単独について実はあまりコメントすることはない。
なんというかそれこそあだち充作品の典型的主人公であり彼の存在がマンネリ感を漂わせるのだけれども、一線を画すとしたらその恋愛の展開の顛末だろう。
ちらっとwiki見てきたけど、ひかりの項目にその結論が書いてあるのは納得がいかなかったりするんだが。
英雄(ひでお)単独も実はあまりコメントすることはない。
途中、目が見えなくなる展開はやはり負けフラグだったのかなぁ・・・。
最後の「比呂を信じられなかった」と悔やむシーンは、あの野球展開は比呂側から冷静に見ればそのためのフェイクを積み重ねたものだとも考えても良い内容だが、野田や英雄が語るとおり最終最後の勝負で土俵を割る理由としては確かに悔やんでも悔やみきれない内容だろう。
この二人の主人公の面白い点は、主人公同士と長く親友で恋愛がたきのライバルって設定は珍しくはないと思うが、最後まで仲違いすることなく話を続けさせた点がすばらしく思う。
その点タッチでも扱われる内容とも言えるが、H2では他人同士、片方は小さい頃からの幼なじみ、もう片方は中学から恋人同士、という差のある二人の比較というのは大きな葛藤を生み敵対さえも辞さない展開も有り得たと思うが、最後まで友好的な関係だったことは読み終わった自分にこの作品全体を明るく楽しいものに感じさせる大きな理由になっている。
- さて改めて野球漫画として
野球をテーマにしているので、展開上次から次へと新しいチームとの戦いを避けることは出来ないが故、彼ら2つのチームの敵としてその試合前後の数話にしか登場しないキャラクターも多いが、どの話も人間性溢れる良い展開になっている。
英雄がいる明和一はバッターが主人公故に、ピッチャーの扱いは難しかったが物語後半に石元が逸話とともに登場し活躍する。
強烈な悪役として登場する広田もまた、語らずにはいられないキャラクターだろう。
その悪役ぶりは自己中心的理由でありそこまでの半生を語るにフォローできない人生を送っており、佐川、大竹、島など彼がらみの登場人物も多いが、途中から肘を痛めるという致命傷を負うことになる。
前半は、徹底的な悪役であり、敵対する際は「名将」とのコンビで主人公達を脅かすが、この「名将」の方がずっと悪人だったね。
肘を怪我した後の彼の再起は、人生を失敗した者の復活という意味で非常に熱い内容で態度も口も悪いけど最終段階に於いて彼もまた大きく成長したといえる。
この名将がらみの話もまた因縁で、かつての池田高校蔦文也監督をモチーフとした外見だが、なかなかに大人の事情をかいま見させる人物である。
「選手は卒業していくが監督は残る」とはなかなかに重みのある発言であったと思う。
- ひかりとはるか
本漫画のメインストーリーでもあるヒロインとヒーローとの関係。
ひかりの方はいわゆる浅倉南型の強いヒロイン。はるかの方はドジッ子だが意志の強いヒロイン。
しかし全編を通してひかりと比呂、そして英雄の関係こそがテーマであり、俗な言い方をすればどちらとくっつくかこそが重要なテーマだったと思う。
また少年誌とはいえ、あだち充が得意とする●RECすべきシーンをそこかしこにちりばめられ華やかになっており重要な要素といえる。
ひかりの話は特に母親関係の話がマジで泣かされる。
比呂とキャッチボールするシーン、それを遠くから見る英雄、この人間関係がこの一シーンに集約されているとも言える。
はるかの絡みの話はコミカルな内容が多い。
木根しかり柔道男しかりである。
ガチ柔道男は問題君だったが。
- 総合して
恋愛の話にも直接関係する話なのだけれども、ライバル関係というのは作品を展開中は作者がフォローすることによって話を補い、負の面を回避できることもあるのだが、終わってしまった作品について改めてそのフォローをするというのは不可能である。
何が言いたいかというと、この作品のスゲーと思わせるところは、作品が終了した後の展開というのは誰しも想像したくなると思うけど、禍根が極端に少ないことである。
ひかりを巡る話にはもちろん決着が付いたのだろう。
比呂も英雄も真剣に向き合ってそしてひかりとともに結論が出たようである。
つまり恋愛に於いて決着というのは勝者と敗者が必然的に生まれるものだが、結論はもしかしたら誰も勝利しなかったし誰も負けなかったのだろう。
そう思わせる終わり方も面白いが、何よりこの作品に書かれた後も第一話から続く野田と比呂でこぼこコンビのドタバタや、英雄とひかり、はるか達が友好的にやっていくんだなと言うことを思わせる終わり方がまず良いのである。
木根の件もしかり、広田の件もしかりである。
特に広田のような悪漢は個人的には好みで、それが痛めつけられるのも必然、立ち直りそれが主人公とこれからも友好的な関係で行くというのは暖かいものを感じる。
作品が終わった後に残す余韻が心地いい。
思えばあだち充の書いた作品のほとんどはこのような、完全ハッピーエンドを必ず約束してくれる意味でマジで安心感があるわけだけど、タッチがその後どうなるか、といえば不安要素も多少あり、「ラフ」などは決定的敗者と勝者が決まって終了している。
「ラフ」も好きな作品だけどその後を考えるとちょっと不安要素の残る余韻が気になったり。
思えばこの作品が終わった後の余韻、その後のことを考えるというのは、マジで古い本だけど
あれから4年…クラリス回想 (アニメージュ文庫 (C‐004))
- 作者: アニメージュ編集部
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1983/08/01
- メディア: 文庫
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その意味では未解決の作品は多い中、H2などは完全に完結してしまった感があるところがいいんですな。
以上、何回かこまめに投稿しましたがコレが感想です。