王将戦第4局

 一日目終わりの段階で羽生が突如戦いを仕掛けててこれは熱い展開だという感じでした。
 この前の朝日オープンでも無理じゃねという8五金で競り勝ったり、多少不利に見えても勝ってしまうという展開があるので羽生という信用はこれで勝てるのか!という流れで人を惹く。3三馬でいきなり桂馬を補給したり、まあ派手で派手で。
 でも今回は久保棋王の方が終盤の読みは勝っていたそうだ。


 そもそも、久保棋王の話をあまりしていないのは羽生マニアたる俺である所以だが、この久保棋王がまたものすごく強いことは言っておかねばならないのだろう。
 今王将戦、第4局を久保が勝ち、これで第三局までの「先手が順当に勝つ」という流れが崩れ、3−1、王将の奪還に王手がかかりました。この先手有利の話ですが、久保棋王の先手がめちゃくちゃ強い、との評判であるからこそ出来上がる流れでもあります。


 ちょっと話を外れます。


 今の状況、深浦王位、久保棋王、そしてこの前名人に挑戦していた郷田九段、彼らの活躍ってのが将棋界って面白いと思わせます。そして自分の視点ですが、考える能力の経年劣化って何だろうって疑問に持たせる一つの例として非常に面白いのです。
 昔に立ち返ると、羽生森内佐藤などがチャイルドブランドと呼ばれた時代、この頃は屋敷九段などの活躍も含め「若いほうが圧倒的に強い」という印象を強烈に焼き付ける時代でした。 
 先にあげた深浦王位、久保棋王、郷田九段。彼らも1970年〜1974年の間に生まれた当時若手で、その若手圧倒的の時代からすでに15年近くが過ぎて、現在でも第一線の人たちです。
 途中で大活躍しもちろん今でも第一線の藤井九段、丸山九段たちもこの世代、三浦九段は1975生まれですか。
 活躍する時代がだいぶ後になるゴキゲン中飛車の近藤六段なんかも羽生森内佐藤の1970年生まれだったり、何となく若手の感じがあるでも頭は薄い木村一基八段もこの世代(1973生まれ)、とにかく活躍する人たちがこの年代の人たちに密集しているわけです。
 「若い時の方が強い」、この先入観は今でも持てる一般に正しい予測であるとされていますし、自分もあまり疑っていませんでした。
 数学界ではフィールズ賞というのがありますが、これには40歳以下の者という限定条件が付いています。これ、昔数学で活躍するには若い時の方が圧倒的であること、授与に関して経年の功績(権威)は対象にしないためなどと言われていて鵜呑みにしていたのもあります。
 出てくる若手を応援する意味で、積極的に否定する気もならないけど、短絡だったんだなぁと反省することはありますね。
 まあ「若手の」阿久津七段あたりがもっと活躍すると違うんでしょうかね。(注:将棋世界を読んでいないとなぜ「若手の」とカッコをつけるかわかりにくいのでネタばらししてしまいますが、本人が「すでに10年棋士をやってるので若手扱いはおかしい」と述べていたという話からです。)


 でともかく久保王位ですが、10年近く前からタイトル戦に出場、その後タイトルもとりますが、特にここ2、3年、特に力を出してきた棋士のような気がします。
 「裁きのアーティスト」は大岡越前守ということで・・・「捌きのアーティスト」が久保王位のあだ名です。振り飛車党のなかでも特筆すべき特徴ですが、うーんうまく説明できそうにないが頑張ってみよう。


 盤上の駒をお互いに取り合うことで一掃することを用語で「捌(さば)く」と言います。捌いた後に盤上どう落ち着くかで有利不利が決まりますが、特に将棋ではお互いに取り合った(交換した)駒は手駒として後に使えるので、お互いに派手な手が指せるようになります。
 もちろんその交換した駒の価値を考えると不利な交換はしない方がいいのがあたりまえ。駒割が互角の交換、飛車と飛車、角と角、銀と銀、そして桂と桂の交換を全部を実現した場合、振り飛車は特に序盤は受け将棋となるのでこのように捌けると振り飛車側の有利という考え方が普通です。(有利と判断する材料に使った手数なんかも絡むのかもしれない)
 でも強い人同士の捌きあいの場合は単純な静的な駒の価値ではなく、その瞬間の駒の価値で捌くため一瞬不利になる駒交換でも、相手の王に迫れれば、後で取り返せる状況ならば、というその先にある状況を踏まえての交換をするのが当たり前なので等価交換ばかり頭にあるわけではありません。
 もちろんプロ同士なら相手もプロなわけでそんなことは十分承知、しかし毎度その上を行って駒を捌き、あまつさえ有利な状況を作り出すことに長けているのが久保将棋の特徴ということで、それを観戦していると、軽い手(この言葉の説明って難しい)が多く、大駒を取り合って打ち合うとか見た目派手なので面白い将棋になることが多いのです。


 ゆえに久保王位は、将棋ファンの中でも非常に人気のある棋士なわけです。2chでもスレがいくつもあるぐらい、といえばその人気の度合いは測れるのではないでしょうか。余禄ですが、ずっと前から「また久保が負けた・・・・・・」ってスレがゆっくりゆっくり進んでもうすぐ終了を迎えますが、久保というとこの言葉のイメージが自分の中では渦巻いてます。


 改めて将棋は「菅井三段がすごかった」ということで。次の将棋をまとう。